皆さんからのお便りが力になります
私は百貨店の社員で、お客様案内の仕事をしていた。
その日も迷えるお客様を適切な売り場にご案内していたら、外から投げ込まれた何かがいきなり爆発した。
どうやらテロらしい。みんな一目散に走って逃げて行く。
私は足を怪我してしまい逃げ遅れてしまった。
なんとか近くのエスカレーター下まで移動できた。植木鉢の影に隠れて、目立たずにやり過ごすことにしよう。
テロリストがぞろぞろと百貨店の中に入ってくる。人がいないかをくまなく探しているようだ。いっそう息をひそめて、静かに縮こまる。
と、背後からいきなり、誰かが私の腕を掴んで立たせようとしてきた。
やばい、テロリストに見つかってしまったか!?
恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはヒーローが立っていた。
ここ最近は特撮ドラマの世界だけじゃなくて、ほんとに現実でもヒーローが活躍している。
しかもちゃんと5人が色分けされていて、たしかレッドとブルーが人気だった。私の家にはテレビがなくてニュースをあまり見ないから、へぇーやっぱりドラマと同じでレッドとブルーが人気なんだーぐらいしか知らない。
私を助けに来てくれたのはイエローだった。
イエローかぁ〜〜と思ってちょっとガッカリしてしまった。
どうせカレーとか食べるんでしょ、と思っていたが、少なくとも登場時にカレーは食べていなかったし、スマートな体型だった。
イエローが私をかばいながら出口のあるフロアまで誘導してくれる。気づいたテロリストの銃弾がこっちへ向かってくる。
どうするんだ!?と焦っていたら、おもむろにイエローがA4のポケットファイルを取り出した。
表紙は青色。黄色じゃないんかい。
そんな大きなファイルどこにしまってたの、と尋ねようとした隙に、イエローがいきなりファンレターをラジオパーソナリティ風に読み上げ始める。
どうやらA4のポケットファイルの中身は今までファンから貰ったお手紙らしい。4/1始まりで綴じられている。
年度ごとなんだ…マメだな…。
そういえば先程から銃弾が飛んできているが、すべてイエローを包む謎のオーラによって跳ね返されている。
どうやらこのヒーローの特殊能力は、「ファンレターを読んでいる間は無敵」というものらしい。
黙読じゃダメなのか?と思ったけど、音読しないと効果が発動しないようだった。
ファンレターによるオーラはイエローとイエローが接したものだけを包んで守っているので、できるだけイエローにくっついて歩かなくてはいけない。
色々なお便りがあった。実際に助けられた人からの感謝の手紙、顔ファンからの黄色い声援、アンチの罵倒、人生相談、独白。
詳細を聞いている余裕はなかったが、長いお手紙だとそれだけで安心感があった。
もうすぐで出口のあるフロアだ、というところで、イエローの音読していたお便りの内容が
「あけましておめでとうございます!」
ばかりになる。
しまった!!新年だ!!!!
イエローの無敵時間は文字数依存なので、あけましておめでとうございます、だけのハガキでは枚数の割にすぐに効果が切れてしまう。
謹賀新年、なんてもっと短くて最悪だ。どうしよう。
あっという間に3月になって年度が終わってしまうぞ…、ピンチ!
どうする気だと思ってイエローの顔を見上げる。まだ敵の攻撃は止まない。
私の焦りを見透かすように、イエローがにやり、と懐から2冊目を取り出した。
1冊目は前年度のかい!そしてよく懐に2冊も入っとったな!!マメかよ!!!
と、ほっとして、目が覚める。